<評価基準>
■ストーリー … 脚本、設定も含めて、破綻がないか。テーマ性を貫けていたか。そしてオチがしっかりしていたか等。
■キャラクター性 … キャラクターの魅力。キャラクターと声優の声のイメージが合っているか等。
■画 … キャラクターデザインに忠実か。作画の破綻、崩壊がないか。よく動いてるか等。
■演出 … 声優の演技。盛り上がりを作れているか。BGMや挿入歌が効果的に使われているか。カメラワークや構図の工夫。各話の引き等。
■音楽 … OP・EDが作品の雰囲気に合っているか。BGMや挿入歌の評価等。
■総合的な評価 … この作品を面白いと思ったか、また満足度。他人に薦められる作品か等。
<はじめに>
この作品は、「分割2クールものの後半戦」な位置付けとなっております。
しかし、
■前作の評価には参加していない
■1クールずつ評価するのがかったるい(w
という理由から、本サイトでは
「前作・本作を通したTVシリーズの評価」とさせていただくのを前提とします。
<『輪廻のラグランジェ Season2』の評価>
■ストーリー … 3点
地元を愛する女の子が、生まれも育ちも違う異星人(※)との出会いを切っ掛けに、ロボットのパイロットとなって様々な問題へと向き合う物語。
ここまでだと、
「ファンタジー系ロボットSFか」と思うことでしょう。
しかし実際は、むしろそういった要素の方が少ないことに戸惑いを感じるのではないでしょうか。
これがどういうことなのか、説明してみます。
1期では、鴨川でまどか・ラン・ムギナミが出会い、学校やBWHでの共同生活を通じて交流を深めて行く様子を中心に描写しており、ランやムギナミが抱えて込んでいる「ある問題」については、ほとんど触れられていません。
ここで言う「ある問題」とは、彼女達の故郷の問題─星間国家ポリヘドロンの惑星間紛争─であり、これがSeason2での物語の核となっています。
ここでポリヘドロンの背景を見てみると、
・ウェトムンドゥス(二万年前の地球、ポリヘドロンの前身)で起こった内乱と、世界の崩壊
・惑星ウ・ゴー(ムギナミの故郷)が抱える社会問題(スラム化、犯罪等)
・「千年問題(惑星同士の衝突)」に端を発する、デ・メトリオ(ヴィラジュリオの国家)とレ・ガリテ(ディセルマインの国家)の小競り合い
といったものが挙げられ、
「どこか歪で、綻びがかった世界」であるとの印象が浮かび上がってきます。
特に最後の項目については深刻で、いつ爆発してもおかしくない、一触即発の様相を呈していた。
それがまどかの住む、地球・鴨川でのウォクス(作中のロボットである「オービッド」の一種)の発掘を機に激化していき、Season2冒頭での
「仲間同士であったはずの、ランとムギナミの戦闘」という最悪の形で視聴者へと向けられるわけです。
ですがこうした「綻び」をまどかの視点から見た場合、かなり事情が変わってきます。
1. 何でランとムギナミが戦っているのさ
2. デ・メトリオとレ・ガリテが対立しているからだよ
3. だったら国を治める王様同士(=ヴィラジュリオとディセルマイン)を仲直りさせればよいじゃない!
4. いやいや、国益とか慣習とかの問題あるし、説得とか大変でしょ!!
5. 関係ないよ!それに口で言ってダメなら、一発ぶん殴ってわからせる!
ざっくり言うとホントにこんな感じw
結局、彼女にしてみれは「友達が困っている」事の方が問題で、「国家」や「しきたり」はその延長線上にあるものと捉えている。
こうやって
「難題」を矮小化し、行動で示すことで解決する「シンプルさ」がまどかの持ち味なのです。
こうしたまどかの「行動」が、様々な出来事に影響していく。
彼女に関わる人達の心を開き、様々な問題の「質」を変化させ、果ては鴨川の上空に現れた黒い「輪廻の輪」(=心の澱み)を綺麗な「花」(=清らかな心)へと変え、鴨川とポリヘドロンとの「異星間交流」までをも実現する─。
まるで
「人と人とが、輪になってつながっていく」かのように。
ここまで読んで、「あるジャンル」が思い浮かんだ方は鋭い。
そう、例えば「
涼宮ハルヒの憂鬱」や「
輪るピングドラム」といった
「準セカイ系」(と言うべきなのかは、あまり自信が無いw)の性質を持った作品、というのが見えてくるかと思います。
根本的に違うのは、
・「セカイ系」は「変化球」で表現するのに対し、「直球」で表現している
・「セカイ系」は暗い雰囲気が多いのに対し、(シリアス以外)明るい雰囲気で一貫している
といったところかなぁ。(なので、個人的には非常に入りやすいというのもあった)
以上の事から、わかる人には「あ、これ面白い」ってなるんだろうけど、わからない人には
ただの「聖地推しアニメ」「女子高生の日常」「中途半端なロボットもの」に成り下がるのでは…と思うのですw
他に細かいところだと、「話の前後が見えにくい箇所が多い」ってのがあるかと。
例えば、Season2における以下の流れ。
1. ユリカノの生存に驚くイゾ達が、真相を確かめにディセルマインの艦へ
2. まどか(中身はユリカノ)の鼓舞の元、レ・ガリテ軍と交戦。直後にユリカノ消滅
3. ユリカノが消え、意気消沈するイゾ達
4.
棚田の夜祭りの準備が進む中、アレイが「もういいんだ」と何かを決意したかの一言
5. キリウスは家督の継承、アレイはアカデミーの教官になるべく、デ・メトリオへ帰還
驚くことに、これ全部4〜9話の間で
「ごく断片的に」しか語られてませんw
一応補足しとくと、(時系列的に)
1. 衛星軌道上での戦闘〜和平会談があったのは、
納涼花火大会の時期(大体7〜8月頃)
2. 棚田の夜祭りが行われる時期が、10月下旬頃
3. キリウス達のお別れパーティーは、クリスマスに開催
となっているので、最低でも4ヶ月の時間が流れている計算になる。
ですが、この4ヶ月間でイゾ達に起こった変化、すなわち「隙間の描写」がすっぽり抜け落ちているので、
単に「性格が豹変した」としか思えないレベルにまで破綻しているのは、脚本がまずいと言われても仕方ないw
さらに言うなら、ポリヘドロンやオービッドを取り巻く歴史や情勢といった「設定」「世界観」はかなり細かく作り込んでるのに、本編であまりにも活かされていない、というのも一因かな。
オフィシャルガイドブックや外伝作品(
暁月のメモリアや、
公式サイトの短編小説等)でしか出てないような設定を唐突に出されても、何も知らない視聴者からしてみればポカーンとするだろうにw
これについては、メディアミックス化の悪い部分が出てしまったなぁ…と痛感。
長々と書きましたが、良い部分も悪い部分もそれなりにある…ということで、3点としました。
※:厳密には「地球から宇宙へ移住した人々の末裔」ですが、まぁそれはそれとしてw
■キャラクター性 … 4点
主人公であるまどかは、とても真っ直ぐで筋が通ったキャラ。
時には凹んだり、思い違いもすることもあるけど、友達のため故郷のため、自分の良心の赴くままに物事へとぶつかっていく様は、とても気持ち良いものがありました。
そんな彼女の生き様は、他の登場人物にも様々な影響を与えています。
・畏怖していた「ウォクスの伝説」「己の罪」に、勇気を出して立ち向かったランやアステリア
・「掃き溜め」と唾棄していた過去と訣別し、故郷の丘にリンゴの木を植え始めたムギナミ
・各々の行いを見つめ直し、将来を見据える程に成長したイゾ・キリウス・アレイ
・「自身の行いは民のため」と、頑なにヒロイズムを貫く日々から脱却したユリカノ
・同じ理想を抱いた頃を振り返り、己の所業を受け入れ和解したディセルマインとヴィラジュリオ
そしてその逆も然り。
・まどかの性格を形成した、ようことまちこ先生
・影に日向にまどか達をサポートする、田所以下ファロスの乗組員
・保護者として、まどか達を暖かく見守る浩おじさん
・みちやさちを筆頭とした、日常を支える(作中の)鴨川の人々
こうして挙げた登場人物同士の相関が、
・芯が通った女性キャラ、ブレまくる男性キャラ
・「まどかが影響を受ける」鴨川の人々、「まどかに影響を受ける」ポリヘドロンの人々
といった形で対比され、「心を開き、つながり合う」作品のテーマへと迫っていくのが興味深い点です。
「苦しくても支えてくれる人は居る、だから自分の良心に従って前向きに生きよう」っていう意志が伝わってきて、自分は好きだなー。
「モイドの存在がよくわからない」といった意見が散見していますが、彼はこういったものに対するアンチテーゼなのでは…、って思います。
二万年前から「彼の者(=輪廻)の声を聴く事」に腐心し、結果として
「他人の内面にも、自分自身にも目を向けることが無かった」哀れなキャラだった…と考えれば、物語の立ち位置としてもピタリとハマるんじゃないでしょうか。
(そうした考えに至る背景が、設定や短編小説でしか明確にされておらず、本編だけだとわかりづらいのはあるけどw)
しかしSeason2 8話でのれいこは、正直勿体無かったなぁ…。
存在自体はOVAから示唆されていたのに、散々モブで引っ張った挙句、ただの「ロボットに憧れる後輩」で終わってしまったのは残念過ぎた。
他にも部室でのキスシーン(Season 2話)等に代表される「妙に狙った要素」はちょっと…でしたかねぇ。
(好きな人は好きだろうから、あくまで個人的にってことでw)
最後に、
日産自動車とのコラボレーションによる「オービッド」について。
多数のカーデザイナーがアイディアを出し合ったというデザインは、流麗なフォルムと人型のシルエットを高い水準で融合させており、実際に画面で動いているところを見ても確かに「アニメ映え」するカッコ良さがあります。
しかし話が進むにつれて「登場人物の心情描写」が強調されるようになってしまい、活躍の場を逸した感が拭えなかったのはやや不満が残りました。
「心の有り様」を掘り下げる以上、心情描写に偏重してしまうのは仕方ないから「贅沢な悩みだなぁ」とは思うのですけどね。
以上の点を考慮し、満点から1ポイントマイナスした4点としております。
■画 … 3点
舞台が「実在する地名」(千葉県鴨川市)であり、舞台にゆかりがあるもの、
がふんだんに盛り込まれているのが特徴です。
これが作中の演出と相まって、
「足を運びたくなる、魅力的な風景」として描かれています。
作品が切っ掛けで何度か鴨川を訪れましたが(旅好きなのでw)、情景等の再現度が非常に高く驚嘆したものです。
ただSeason2からはそういった描写が鳴りを潜め、
「鴨川推しか、日常ものか、はたまたロボットものか」どっち付かずの中途半端な状態に陥ってしまった…とも感じております。
その救済案としてOVA(
鴨川デイズ)がリリースされており、そちらは作風ともマッチした「鴨川の四季」を上手く表現できていたと思います。
他には1期11話やSeason2 6話でのドッグファイトに代表される「オービッド」の戦闘も見どころ。
まどかの性格を反映してのプロレス技、慣性を無視したロボットの機動や背景の動きは臨場感に溢れていて、作画スタッフのこだわりを感じましたね。
今回は「TVシリーズのみの評価」なので、間を取って3点としました。
OVAや外伝作品まで含めれば、5点に近い4点を出せるんですが。
■演出 … 4点
・使い手の精神とリンクした「ウォクス」「輪廻の輪」
・アバンでのあらすじや、まどか達の心情を表した「三色の椅子」
・コメディや呆然とするシーンで多用される、水玉模様やパステル調の色
といった作品独自の見せ方で、
「喜怒哀楽」を活き活きと表現しているのが面白いところ。
注意深く見ないとわかりづらいといった欠点はありますが、わかる人には思わずニヤリとしてしまうシーンが多かったのではないでしょうか。
また、まどかを演じた石原夏織さんの雰囲気も良かった。
演技としてはまだまだ荒削りではありますが、自分なりにまどかが持つ「真っ直ぐさ」を表現しているのが伝わってきて、今後の可能性を感じました。
同年代であるラン役・瀬戸麻沙美さん、三人の中では最年長のムギナミ役・茅野愛衣さん、総監督の佐藤竜雄さんを始めとするキャスト・スタッフの方々が、それぞれの立場から石原さんを見守ってらっしゃったのも好感度高かったです。(
ラグラジ!とかねw)
■音楽 … 5点
ちょっと不思議な雰囲気が漂うアコースティックやテクノ中心の楽曲は、登場人物や情景の変化を繊細に捉えており、演出効果としての「劇伴」の役割をきっちり果たしていました。
鈴木さえ子さんとTOMISIROさんは凄くセンスに溢れた方だなぁ…って思う。
中島愛さんやジャージ部三人娘による主題歌・キャラクターソングも作品のイメージに沿っていて、外れが一つも無かった、という点を高く評価します。
特に、
・TRY UNITE!(1期 OPテーマ)
・忘れないよ(Season2 EDテーマ)
・Flower in Green(Season2 挿入歌、8話でのアドバルーンのシーンで使用)
・Kamogawa in A major(メインテーマ、日常のシーン等で使用)
・Midori(戦闘のテーマ、ウォクスの発進シーン等で使用)
・Lagrange(輪廻が開いた時のテーマ)
あたりは心に残る名曲でした。
■総合的な評価 … 3点
改めて振り返ると、
・「ファンタジーロボットSF」の影に隠れた「準セカイ系」の体裁
・地方自治体や企業の垣根を超えたコラボレーション
といった、意欲的な要素が盛り込まれた作品。
特に後者は、(成否に関してはともかくとして)
これからのアニメ業界全体を考える上でのエポックメイキング、一つの羅針盤ともなったんじゃないか…って思います。
点数は3点となっておりますが、これはストーリーの項でも触れた
・癖が強いだけに他人には勧めにくい、ゆえに話の流れを読み解ける人には楽しめる
・メディアミックスが前提となっており、作品の世界観が見えにくい
を考慮しての評価です。
個人的には、(外伝作品やイベントも含めて)今年一年最も楽しめた作品。
キャラ同士の何気ない掛け合いを延々と続ける「日常系」に飽き飽きしていた自分を、良い意味で唸らせてくれたなぁ…と実感しております。
私信になりますが、作品に関わった全ての方々へ感謝を込めて。
ありがとうございました!
■総合点 … 22 / 30 点
ちょっと不思議な雰囲気や綺麗事・ハッピーエンドが好きな人、「内省」「地元愛」「心と心のつながり」といった作品のテーマへ共感できる人にオススメ。
総合評価に記載した欠点もあるが、観終わると「後を引くような心地良さ」が感じられる作品。